ページの関係などで削った十五巻のご飯を食べているの場面のエピソードになります。
十五巻の内容になりますので、ぜひ本を読んでから読んでいただけると幸いです。
「届いた食材はどんなものなの?」
キースが興味深そうにそう聞いてきた。
「そうね。まずは採れたてのお米、艶々のピカピカで美味しそうだったわ。今、調理してもらっているから出来上がったら届けてもらうことになっているの。それから、珍しいキノコに栗に柿なんかも」
「その栗とはシャルマでよく食されているという、木になっているというあれですか!」
さすがあらゆる本を読み漁っているソフィア、王都の方には生息していないにかかわらず、栗という単語だけでどういうものかわかったようで、食いついてきた。
「そうそう、木になっているアレよ」
「木になっているということはフルーツなのですか?」
メアリが聞いてきた。
「柿の方はフルーツだと思うけど、栗はどうなんだろう。ソフィアはわかる?」
「残念ながら、そこまでは覚えておりませんわ。ただ本に描かれていた木になっているという姿がすごく印象的で覚えていただけなので」
「木になっている姿が印象的とはどのようなものなのだ?」
ニコルが興味深そうな目を向けてきた。(顔は安定の無表情だけど)
「栗は木に成っている時は、こうとげとげにおおわれている感じです」
私は手振りで『とげとげ』を示したけど、ニコルは首を横に傾げる。そこで、
「とげとげとは……もしかして、あの森の中にあったあの木でしょか!」
マリアが何かを思い出したようにそう口にした。
「ああ、マリアはヴィクトワールの森の中で栗の木を見てたんだね」
どうやらマリアは、闇の使い魔討伐時に森に入った時に栗の木を目にしていたようだ。
「はい、印象的な形だったので覚えていたんです。あれを食べるのですか」
マリアの眉尻がへにょんと下に下がたのを見てソフィアが、
「マリア様、私が読んだ本では、あのとげとげの中にくりんとした丸い身が入っていて、それを食すと書いてありましたよ」
そう言うと、マリアの下がっていた眉があがった。
「そうなんですね。あのとげとげを食べるのはなんだか痛そうで心配になってしまいました」
「そうだよね。説明不足でごめんね。あれをそのまま食べると思うと心配だよね」
マリアはそれで納得してくれたようだが、
「それでそのとげとげというのは結局、どのような感じなんだ?」
とげとげの形態がわからないまま首を傾げるニコルに、ソフィアがどこからともなく紙とペンを取り出し、上手に絵を描いて説明した。
さすがソフィア、絵も説明も非常に上手だった。
「へぇ~、栗って外身はそんな風になっていたんだな。知らなかった」
ソフィアのニコルへの説明を少し後ろで眺めていたアランが呟くようにそう言った。
「外身はということは、アラン様は中身を食べたことあるんですか?」
「ああ、シャルマに行った時に出されて食べたことがある。食事というか菓子として出されたのを食べて甘かった気がするのだが、あれは食事にもなるのか?」
「お菓子! そうですね。栗はお菓子にもなりますよね。でも食事にも、それこそ今回いただいたお米に混ぜ込んで食べても美味しいんですよ」
拳を握ってそう語る私を見て、キースが、
「義姉さん、なんでそんなにシャルマの食事事情に詳しいの?」
不思議そうに聞いてきた。おっとシャルマが前世暮らしていた日本と食事内容が近くてつい興奮してしまったが、もっともな疑問だ。
「その、サイラス様の故郷ですっかりはまってしまって、色々と調べたのよ」
「そうか、義姉さんは本当にご飯が大好きだものね」
おお、咄嗟に私にしてはいい返答が返せたと、すんなり納得してくれたキースを前に自画自賛していたのだが、
「ですが、カタリナは今回行く前からシャルマ風の食事に興味を持っていませんでしたか?」
鋭い男ジオルドがそのようなこと言ってきた。
うむむ、やるなジオルド。これはどうしたものかと考えていると、別のところから助けの声があがった。
「あの、カタリナ様は以前からサイラス様にシャルマ風の食事をいただいていたので、その影響ではないでしょうか。私も同じようにいただいていたのですっかりはまってしまったので」
マリア~、救世主、もう素晴らしすぎる。さすが私の心の嫁。
そんなマリアの完璧な答えにジオルドも、
「そうなんですね」
と納得して、
「僕も今度、カタリナのためにシャルマから何か取り寄せますね」
などと言ってくれた。やった~。
「私ももっと勉強してシャルマ風のお料理にお菓子を作れるように頑張ります。あの栗というもののお菓子についても調べてみますね」
なんとマリアが栗のお菓子についても意欲的な意見を出してくれたではないか、マリア、いい子過ぎる。大好きだ~。
「よかったらいただいた栗をおすそ分けするわ。たくさんもらったから」
サイラスのお母様はサイラスの恋を応援している様子だったから、マリアにもらって調理してもらえるなんて喜ぶと思う。そして私も嬉しい。
「いいんですか、ありがとうございます。嬉しいです。カタリナ様に喜んでもらえるように作りますね」
マリアはそう言って朗らかに笑う。
「やった~、じゃあ、楽しみに待っているね」
そんな風に皆でシャルマの食材のこと、それから今日の収穫祭のことなどを話しているうちにあっという間にそれなりの時間が立ち、やがて料理の準備ができたとの知らせがきて皆で食堂へと移動した。
お客様お迎え使用に準備された食堂で、それぞれの席に着くとさっそく最初の料理が運ばれてきた。
サイラスのお母様のレシピ、椎茸とごぼう、芋の煮物だ。
色合いが全体的に茶色なのでクラエス家の洋食器には少しに合っていない絵面ではあったけど、サイラスの実家から帰宅ぶりの煮物に私はすぐに手を付けた。
まずは送ってもらった椎茸からパクリと口に入れる。
椎茸にしみ込んだ少し甘みの煮汁がじわりと口に中に広がった。
うう、美味しい。懐かしい。このなんともいえないうまみに頬が蕩けそう。
ごぼうと芋はクラエス家の畑産だ。ごぼうは歯ごたえがあり、芋はほくほく、味付けも絶妙で最高に美味しい。
私の作った野菜と届いた食材が一緒になっているのもまた嬉しい。
これで和食を作ったのが初めてなんてうちの料理人は天才すぎる。今度、たっぷりお礼の再仕入れをしなくちゃ。
そうして頬に手をおきうまみを噛みしめていると、初の料理の出来が気になったのか和食を頼んだ料理人が給仕にまじって少しだけ顔を見せてくれたので、私は頬に手を当てたまま口をにんまりして、目で本当に美味しいと伝えた。
料理人は嬉しそうな顔になり私に軽く頭を下げて去っていった。本当にたくさんお礼しよう。
その後も、サイラスのお母様レシピで再現された和食が数品続き、皆、興味深そうにそして美味しそうに食べてくれていた。そしてついに待ちに待ったお米とお味噌汁が登場した。
「これが義姉さんが帰ってきてから毎日食べたい食べたいって言っていたお米というものか」
皿に盛られたお米を目をまじまじと見つめながらキースがそう言った。
そうキースの言う通り、サイラス故郷から帰ってきてからずっと食べたい食べたいと言ってました。
だって一度食べたら、また食べたくて仕方なくなったのだもん。
「そうよ、これがお米、採れたての新米だからピカピカの艶々で美味しそうでしょう」
「こうしてみるまではカタリナの言うピカピカの艶々というのがいまいち想像できなかったのですが、これはその表現も納得ですね」
ジオルドも興味深そうにお米を見つめてうんうんと頷いた。
「では、いただきましょう」
私はピカピカのお米をすくって、大きく口をあけて中に入れ込んだ。
ふわりとした食感とほのかな甘みが口の中にじわりと伝わってくる。歯をたてれば、さらに甘みが広がっていく。
ああ、前世ぶりの新米、美味しすぎる。このまま白米だけで一善いけるけど、ちゃんとご飯のお供も用意してもらっているからな。
私は小皿に置かれた赤く艶々な実に目を移し口角をあげた。その時、
「うわっ」
そう声をあげアランが口を手のひらで抑えた。そして、
「なんだこの赤いやつはすごいすっぱいぞ」
と眉をしかめながら漏らした。そんなアランを見て、
「ああ、アラン様、それいきなり食べてしまったんですね。それはかなりすっぱい好みの別れる味なんですよ」
キースが苦笑して言う。
「キース、お前、これ食べたことあるのか?」
「それ義姉さんがサイラス様の故郷から帰る時にお土産にもらってきたものなんです。だからすぐに食べましたよ。僕も義姉さんが『美味しいよ』しか言わなくて、まったく予備知識なく食べてすっぱい思いをしました。でもお湯に入れたりして飲んだら意外と美味しくて、え~と、これの名前は……」
「梅干しよ」
私はシャキーンとそう言った。
「そうだ、梅干しというか義姉さん、皆にもちゃんと梅干しはすっぱいと説明した方がいいよ。アラン様みたいに驚いてしまうよ」
キースがお母さん顔でそう言ってきたところに、
「いえ、まったく見たことのないものを一番先にそのまま全部口に入れるなんてアランくらいのものですから、それほど問題ないですよ」
ジオルドがニコニコとそう言い、そんな兄を弟アランはじと目で見つめ、
「……なんかすごい美味そうだったんだよ」
とぼそりと返していた。
確かにジオルドの言う通り、アランの他には梅干しに手を付けている人はいなかった。
ちなみにキースも私が美味しいからと勧めても、まずはちょっとずつ口に入れて慎重に食べていて、そのまま一口ではいかなかった。皆、意外と慎重なんだな。
「アラン様、私も初見でも構わず一口でいきますよ」
なんだか少しアランがしょぼんとしているように見えたので、そのように私も同じだよと伝えてフォローしようと思ったのだけど、
「……俺はカタリナと同じレベルか」
とよけいにしょぼんとなってしまった。
どういうことだ。私と同レベルとは? と思うことはあったけど、まずは梅干しのことが優先だ。
「この梅干しというのは梅の実というのを干してつけたものなの。かなりすっぱいから最初はびっくりするかもけど、慣れると美味しいのよ。キースが言ったようにお湯にいれて飲んでも美味しいし、それからこうしてお米に乗せてお米と一緒に食べるとすごく美味しいの」
そう言って私はお土産にもらってきてからずっと、ご飯の上にのせて食べる想像をし続けてきた梅干しをぱくりと口に運んだ。
口の中に梅干しのすっぱさが広がり、ご飯のうまみと合わせって口の中で最高のハーモニィーを奏でる。これ、これこそ日本の味、ご飯に梅干し。美味しすぎる。これ、ほっぺが本当に落ちているかもしれない。
「カタリナ、本当に美味しそうに食べますね。その顔を見ているだけでも幸せな気分になりますが、せっかくなので僕もいただきますね」
「おっ、本当だ。これ米に乗せるとすっぱさがちょうどよくなって、なかなかうまいぞ」
「……アラン、君の切り替えの早さにはびっくりします」
「義姉さんの言う通り、ご飯と梅干し合うね。美味しい」
「う~ん、すっぱいですけど、でもお米と合わせるとすごくいい感じです。お兄様も食べてみてください」
「うむ」
「サイラス様のお家でも少しいただきましたが、新しいご飯だとまたさらに美味しいですね」
「ええ、このすっぱさ意外と合いますわね。梅干し、これは色々と活用方法がありそうですね。社交界で出せば注目されそうですね」
メアリのその社交界という言葉に前世の梅酒なるものを思い出した。
「あっ、梅干しはお酒に入れても美味しいらいしよ」
前世では未成年だったので私は飲んだことなかったけど、お父さんやお母さんがたまに飲んでいた。
「そうなんですね。今度、試してみたいですわ。こちらに取り寄せたりはできないんでしょうか?」
「今度、サイラス様に聞いてみるね」
お手伝いした田んぼで地域活性化のために食べ物を売り出してアピールするという話が出ていたので、もしうまくいけばあちらの食材や料理もお取り寄せできるようになるかもしれない。
「そのようなことまで知っているとはカタリナはシャルマの料理に詳しくなりましたね」
「色々教えてもらったのと、調べたりもしたので」
とジオルドに返しつつ、実は前世の知識なんだけどねと心の中でこっそり呟く。
「この梅干しはご飯やお湯、お酒以外も何か食べ方はあるのですか?」
マリアが興味深々と言った様子でそう聞いてきた。
梅干しの活用法、私は前世の記憶をたどった。
うちの家の庭には梅の木があって毎年、たくさんの実をつけていたのでおばあちゃんがそれで梅干しをはじめ梅ジュース、梅ジャム、梅酒など色々と作ってくれていたのよね。
なので梅干しの活用法には少し自信があるのだ。
「そうね。刻んで料理に入れたりかけたりすると酸味がきいて美味しくなったり、潰してペースト状にしてからサラダや肉、魚の上に乗せて食べてもまた美味しいらしいわ」
ああ、梅のドレッシング、想像したら食べたくなってきた。
「カタリナ様、本当にシャルマの料理に造詣が深いのですね。サイラス様がくださったおにぎりも知っておられましたものね」
マリアが尊敬したような眼差しを向けてそう言ってきた。
あまりこのような尊敬の眼差しを受けることがない身としてはとても嬉しくなってきた。そこへ、
「おにぎりとはどんなものだ?」
知らないものに意外と食いつきのよいニコルがまた興味深そう(顔は無表情)に聞いてきた。
「おにぎりというのはですね。このお米を握って丸型や三角方にして食べるものです」
「なぜ丸や三角にするのだ?」
「手で持って食べるからですね」
「これを手で食べるのか?」
「はい、手に付かないように海苔というものを巻いたりもしますけど、そのままでもいけます」
「のりとは?」
「海苔は海でとれる海藻で作るもので、作り方まではわからないのですがこんなくらいの薄いペラペラの紙みたいなものになります」
「そんなものがあるのか」
ニコルは興味深そうに「うむ」と頷いた。
「その、おにぎりというもの、私も食べてみたいです」
ソフィアがピンと手を伸ばし挙手してそう言った。
「私もお話を聞いていたら興味が出てきてしまって、お願いすることはできますか?」
メアリがそう言えば、アランも、
「俺も」
と声をあげた。
ジオルド、キース、ニコルはあえて口にしなかったけど、興味がありそうな顔でこちらを見ていた。特にニコルの目はキラキラしていた。
「海苔はないですけど、お米があれば簡単にできますので料理人にお願いしてみてきますね」
私はちょうどお皿もカラになったので立ち上がり、そのまま料理人の元へと向かった。
料理がとても美味しかったことを改めて口頭で伝え、それからおにぎりについての相談をした。料理人はまた快く了承してくれて本当にありがたい限りだ。
ご飯は炊いて余っていたご飯はまだ暖かかったのでそれでおにぎりを作ってもらった。
前世では料理なんてほとんどしたことない女子高生だったけど、おにぎりはよく作って間食用に持っていっていたので作り方もばっちりだ。
その作り方を伝えると、料理人はまたして完璧なものを作ってくれた。クラエス家の料理人たちはやはり天才だ。
そうして作ってもらったおにぎりを運んでもらい皆の元へと戻る。そして、
「おにぎり作ってもらってきました。どうぞ召し上がってください」
と配っていく。海苔はここにはないので、ご飯を丸くしただけの白いおにぎりだ。
「ありがとうございます。これがおにぎりというのですね」
「さきほどのご米を丸めるとこうなるのですね。不思議ですね」
ソフィア、メアリは目の前に置かれたおにぎりを見てそんな風に言った。
「おお、これもまた美味そうだな」
「これがおにぎり」
「本当に義姉さんの言ったとおりで、こんなに丸くなるんだね」
「米というのは面白いのですね」
男性たちも皆、興味深そうにおにぎりを見つめた。
ただ手で食べる食べ方についてがわからないのだろう、すぐに手をつける人がいないので、私が代表して手でおにぎりを掴むと、
「では、いただきます」
とぱくりと口に入れた。ご飯はご飯で美味しかったけど、おにぎりにするとさらにまた違う美味しさがある気がする。
「う~、美味しい」
思わず頬も緩む。
そんな私に触発された皆もそれぞれ、恐る恐るとおにぎりに手を伸ばした。
「う~ん、確かにさっき食べた米と同じ食感だけどなんかこれは塩気がある気がする」
なんとなく大雑把に見えて意外と舌は繊細らしいアランが、おにぎりを口にしてそう言った。
「おお、よく気が付きましたね。アラン様、このおにぎりのお米には少し塩を振ってあるんですよ。そうするとまたちょっと違う感じで美味しくなるので」
「そうなのですね! そう言えばサイラスにいただいたおにぎりはこのような感じでした」
マリアが目をぱちくりして口元を抑えながらそう口にした。
「作り方をサイラス様からお聞きになられたんですか?」
マリアのその問いにそうだと答えれば楽だけど、サイラスに聞かれるとそうでないのがわかってしまう。サイラスのおにぎりを食べて気づいてはいたけど前世の知識だからな。
「え~と、それも本で調べたの」
とにこりと返す。
幸いなことにここには本の虫であるソフィアもいるので、この返答でもそこまで怪しまれない。
「あれ、これ中に梅干しが入っているんだね」
もくもくと食べ進めていたらしいキースが言う。
「そうなの梅干しはおにぎりに入れても美味しいのよ。他にも焼いた魚とかも入れたりするのよ。たくさん食材をもらったから今度、また色々と試してみるわ」
梅干しおにぎり、鮭おにぎり、昆布のおにぎりに、あとツナマヨなんかもまた食べたいな。揃えられる素材で作れないかチャレンジしてみよう。
「シャルマの料理、本当に詳しくなったのですね。試したらまた僕にもいただけますか?」
「いいですよ。ジオルド様は、甘い系よりしょっぱい系の方が好きですよね。それだとお漬物とかもいいかもれないですね。今回、調味料で味噌をいただいたので味噌漬けもできるかも」
味噌漬けは前世のおばあちゃんと一緒に何度かやったことがあるので、少し試行錯誤すれば出来そうな気がする。
「味噌とはどんな調味料なんですか?」
今度はマリアが興味深そうにそう聞いてきた。
マリアはお菓子だけでなく、お料理もするから調味料は気になるよね。私は持てる限りの前世の知識で答えていく。
「味噌はこう茶色のペースト状の調味料で、確か大豆っていうマメから作られるのよ。そのまま野菜に付けても食べても美味しいし、煮物の味付けとかにも使えて、それから野菜をつけて漬物にもできるのよ」
詳しい作り方はわからず食べ方ばかりの説明になってしまったが、マリアは、
「カタリナ様、本当に詳しいですね。すごいです」
とまたしても尊敬の眼差しを向けられた。
ふふふ、こんなことほとんどないのですごく嬉しい。
その後も、皆から出るシャルマの料理の質問に前世の記憶で答えていく。
そんな私に皆が『すごい、よく知っているね』と言ってくれて、鼻高々な気分になる。しかし、前世の知識でこんなに褒められるなんて初めてだ。
はっ、これは! もしかしてこれが、前世のライトノベルで読んだ転生先で前世の発達した世界での知識を活躍して無双するみたいなあれかしら?
八歳で前世の記憶を思い出してはや十年、私、ここにきて初めて転生無双というのをしてしまったわ。なんだかすごく感動だ。まるでライトノベルの主人公にでもなった気分。
これは私、やれるかも梅干しおにぎり、鮭おにぎり、ツナマヨおにぎりで世界に流行を巻き起こすかもしれない。
今度、サイラスの故郷のおにぎり事情も聞いてみよう。もし塩にぎりしかなかったら、梅干し、鮭、ツナマヨで新しい流行を作り出せるかもしれないもの。
そうなれば私もライトノベルの主人公だ。
タイトルは『転生した乙女ゲームの世界でおにぎりの具で無双する』とかかな。
そんなことを考えつつ、皆と楽しく食事を終えた。
そして後日、おにぎりの具は、普通に前世と同じようなものがすでに存在していることを知り、結局、おにぎりの具、無双はただの妄想で終わってしまった。